メディカルスクールの導入を

―医師の増員が必要であることはよくわかりましたが、その養成について、どのようにお考えでしょうか。

一般にはあまり知られていませんが、日本の医学教育はいま大きな岐路に立たされています。今までの日本の医学教育は臨床教育の単位が少ないため、アメリカからは日本の医学部を卒業して医師国家試験に合格しても医師として認めないと言われているのです。ちなみに、アメリカでは大学を卒業した学士が、メディカルスクールに入学して、4年間でみっちりと臨床を中心にした医学教育をうけます。NHKのBSで放送された「ER 緊急救命室」などを見ていただければ、そのような立場の医学生がよく登場してきます。

現在まで日本では、高卒で医学部に入学をすることが一般的ですが、アメリカが学士を対象に医学教育を行うことにした大きな理由に、高卒の時点で本人に医師の適性があるかどうかを判断させるのは酷だという考えがあったためです。

私もその考えには全く同感です。私も高卒で医学部に入りましたが、今までの勤務を通して、医者の適性を偏差値優先で判断することは困難ということを実感してきました。特に人手不足の日本では、医師には様々な能力が要求されます。忙しく医療事故の危険性が高い中で、患者さんの期待に応えながら働かなければなりません。優秀と言われる医師の中にも、もう少し別な職業を選択したほうが、本人にも患者さんのためにも良かったのではと感じる人もいるのです。私はより適性がある人を選抜し、臨床教育を充実させるためにも、日本でもメディカルスクールを導入し、既存の医学部と医学教育の競争をしながら、医師を増員すべきだと思います。

メディカルスクールの他の利点は、新設する際に6年制の医学部よりもハード面でコストが少なくて済むことです。6年間の医学教育では一般教養の教員や講義室も必要です。一方教育病院と連携したメディカルスクールは、一般教養は不要で臨床教育が中心ですから、教育施設が少なくて済みます。そのため万一将来医師が過剰になっても、メディカルスクールを見直すのは既存の医学部より問題が少ないと思います。

現在の高校卒業者を対象としたままでは、入学後は医学部卒業試験、続いて医師国家試験、その後は卒後研修と多忙を極めて、社会的な問題に関心が持ちにくく視野も育ちにくいのが実態です。私自身も社会的な問題に関心を持てるようになったのは、医者になって20年が過ぎた頃でした。

医師が自身で社会的問題にも関心を深め、情報発信や医療の在り方を提言しなければ、日本の医療崩壊は防げません。一般大学を卒業した学士が、自分の適性を考えた上で医学教育を受け、広い視野を持って活動した方が、将来のために有用ではないかと思います。

現在、日本では、医師になるためには医学部の6年間プラス卒後研修が2年間、計8年かかります。メディカルスクールは現在行っている卒後研修の部分をある程度組み入れることが可能ですから、大学4年とメディカルスクール4年の計8年で、トータルの教育期間はそれほど変わりません。また米国のメディカルスクールは、日本の医学部のように長期間の夏休みや冬休みがないようで、クラブ活動をやる余裕がないほど、厳しく4年間みっちりと臨床教育中心に行われるようです。

もちろん日本の全ての医学教育をメディカルスクールにすべきとは思いませんが、既存の医学部と双方で医学教育の競争を行うことが、日本の医学教育のレベルアップのためにも必要ではないかと思います。