持続可能な医療体制に向けて

―これから高齢化がどんどん進んで社会構造が変化していくわけですが、今後の持続可能な医療提供体制をどのようにつくっていくかについて、先生はどのようにお考えでしょうか。

そのキーワードは、国民が適切な判断ができるように、正しい情報を発信できるか否かにかかっていると思います。先ほど申しましたように、先進国の多くは医療の進歩と高齢化等による需要増大に合わせて医師と医療費を増加させてきました。さらにヨーロッパは受診時の患者窓口負担がほとんどありません。日本ではそのようなグローバルスタンダードが知られていないため、高齢者の負担を若者に押し付けるのか等、若者と高齢者を分断しながら医療費抑制と患者窓口負担増の政策がまかり通っているのです。

その意味で私がこの活動をしていて非常に悩ましいのは、日本人は先進国で一番大手メディアを信じていることです。日本人の何と7割が大手メディアを信じ、一方、イギリスは15%、ドイツ、フランスなどは30%だそうです。その結果私が十年以上、グローバルスタンダードと比べて貧弱な日本の医療の問題点を繰り返し繰り返し訴えても、多くの日本人は大手メディアが報道する、日本の医療費は高すぎるや、医師不足は偏在が問題等の誤った情報をそのまま信じているのです。

ヨーロッパで医療費の患者窓口負担がゼロに近くできるのは、国民がその政策を支持し、さらに余分なところにお金を浪費していないからです。少子・超高齢社会で車の運転人口減少が確実なのに、なぜ第二東名なのでしょうか。多くの無駄を止めて、医療、福祉、教育に税金を使えと、国民が声を上げなければなりません。

日本は教育予算も先進国最低です。資源がない日本が国民の教育費をケチったら、国家は衰退します。そういうことをちゃんと国民が考え、貴重な血税がどう使われるのかをしっかりと考えて投票すべきなのです。

―医療というと、成長産業のひとつとも言われますが、本田先生はその点について、どのようにお考えでしょうか。

医療は産業として十分に成長可能な分野です。というのは発展途上国も、経済が豊かになれば必ず医療ニーズが高まります。医療が必要になるのです。現在未曽有の超高齢社会を目前にした日本が、どのように高齢化社会を乗り切るのか世界中が注目しています。新しい医療機器や薬剤だけでなく、医療や介護システムを構築して世界に発信するチャンスなのです。

そのためには何といっても人材の確保、医師増員も必要です。今でも国境なき医師団などで活躍している日本人医師がいますが、医師不足を解消して世界中で活躍する医師を育て、医療で世界中から感謝される。これこそが、日本が行う本当の平和的国際貢献ではないでしょうか。医師増員と言うと「余ったらどうする」と反対する方が多いのですが、国内の医療を賄うのさえ困難なほど医師不足が放置されていては話が始まりません。