日本と欧米の医療体制の歴史的差異

県立柏原病院小児科を守る会のような動きは、今後の日本の医療再生のために、すごく大事なポイントです。というのは、ヨーロッパやアメリカの医療と日本の医療は、その生い立ちに決定的な差があり、その問題点を解決する可能性があるからです。

日本で現在の医療体制が始まったのは明治からですが、明治初期には、公的病院が全国各地にできて、私的病院より数が多かったのです。ところが、明治10年に西南戦争が勃発し、その赤字が問題になると政府は公的病院をつぶしました。現在と同様、日本は昔から、赤字になると医療費削減、病院をつぶすという歴史がありました。そのような中で頑張ったのが地方の私的病院でした。私立病院が日本の医療を支えてきたという歴史があるのです。

一方、欧米の医療は、もともと教会とかセツルメントなどが具合の悪い人をケアして、そこで医者と看護師が治療を提供する形で始まりました。欧米の医療は初めから、ボランタリーに自分たちでお金を出して医療機関を育てる形で始まったのです。

つまり、日本人にとって医療は提供されるもの。欧米人にとって医療は自分たちも参加してつくりあげるもの。歴史上そういう決定的な違いがあります。

今から30年近く前にアメリカの病院へ見学に行ったことがありますが、泊まったホテルのテレビで、「ボストン小児病院であなたもボランティア活動を、ボストン小児病院に寄付を」というメッセージが繰り返し流されているのを見ました。実際に病院では、多くのボランティアが活動していました。欧米では医療は自分たちも協力してつくるもの、日本人にとっての病院はあくまでも困ったときに医療を提供してもらうところ。だから夜中でも軽症でも具合が悪いときに行って診てもらうのが当たり前。医療の歴史的過程が、国民の医療に対する見方を決定してしまったように思えます。

もし日本人がもっと医療現場に参加していれば、医者は夜働いていて大変だなと気付く機会も増えて、俗に言うコンビニ受診は起きにくいのではないかと思います。なぜなら、入院した患者さんは異口同音に、「医者って大変ですね」「看護師って大変ですね」と言ってくれるからです。しかし、日本では自分や家族が入院でもしない限り、そのような状況に接する機会がないのです。

その意味で柏原病院の小児科を守る会は、まさに欧米のように意識が高い方たちの集まりだと思います。ところが日本ではまだそういうケースは珍しい。立派な病院には最先端の機器が揃い、困ったら専門医に診てもらえるところと期待している方が、残念ながら多数派なのではないでしょうか。日本の医療現場の問題点をもっと知っていただければ、私がお話しすることをもっと理解してくださる方は増えると思います。そしてこの現場の情報不足が、今の日本の医療や福祉、教育が最低の予算になってしまったことに大きく影響していると私は見ています。